学生のための
グッドプラクティス

学生のためのグッドプラクティスについて紹介します.

私の考えのもの多くあり,私と違う考えもあると思いますので,あくまで参考としてご利用ください.

気づいたら,随時,書き換え,追加を行っていく予定です.

Connecting the Dotsを意識しよう!

 まず最初に,Steve Jobs  の 有名な Stanford大学でのスピーチの Connecting the Dots (点と点をつなぎあわせること)  について述べておきます.
スピーチの一部を抜粋して,日本語にすると次のようなものです.

 将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。だから、我々はいまやっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶだろうと信じるしかない。運命、カルマ…、何にせよ我々は何かを信じないとやっていけないのです。私はこのやり方で後悔したことはありません。むしろ、今になって大きな差をもたらしてくれたと思います。
  原文: You can’t connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future. You have to trust in something ― your gut, destiny, life, karma, whatever. This approach has never let me down, and it has made all the difference in my life.

 将来を考えて,今やっていることが「意味があるかどかは現時点では分からない」が,「後になって繋がって実を結ぶことがある」と言っているのです.大学の授業などの勉強も同じです.一見して,意味がないと思えることも,後になってみると,その重要性に気づくことがあるようにです.
Steve Jobsが言うように「大きな差」をもたらすために,多くの「点」を持つことが大切ということになります.

 僕のゼミでは,他の学生の発表をみんなで聞くということをしています.自分とは関係ないなと思いながらも聞いていたら,就職の時に他の学生の卒論に関連する話がでてきて話をさらに展開することができたという話や,就職してからゼミで学んだことを応用できたなどなどのことがありました.まじめる学んでいる人ほど ,Connecing the dots できるようになります.

 今やっていることが,「人生のどこかでつながって実を結ぶだろう」と信じて進められる人は,将来,「大きな差」を自分にもたらしてくると思います.

Retrievalを意識しよう

 Retrieval(リトリーバル)とは,「自分が学んだことを,何も見ずに思い出して,自分の言葉で説明してみること」ということができるでしょうか.何か,新しいことを勉強したときに,Retrievalをすることが,最も効率的な勉強法だそうです.本を繰り返し読んだり,アンダーラインを引いたりすることよりも,大変ですが,より長期的な記憶として残るようです.


「知っていること」と「できること」の違いをきちんと認識しよう!

 おそらくほとんどの人は,「コミュニケーション力」が大切だと言われていることは知っているでしょう.では,「あなたは十分なコミュニケーション力を持っていますか?」と問われたら,どうでしょうか.「知っていること」(頭で理解していること)と「できること」には大きなギャップがあります.このギャップを認識して,どうしたら「知っていること」を「できること」に変えていけるのかということを考え,行動していくことはとても大切なことです.

 学生の時にこのようなギャップがあることは誰でも同じことです.しかし,大人になって,自分にはギャップがないと思っていても,周りの人から見るとギャップがあると「裸の王様」になってしまいます.僕自身も,自分なりに,常にギャップを意識するようにはしていますが,それでもギャップは多く存在します.自分が何かをやろうとする時に(たとえばある会社に就職したいときに),もし大きな壁があるとするのであれば,それは自分自身の「頭で理解していること」と「できること」とのギャップにあることが多いように思います.自分自身の「考え」と「ギャップ」を常に意識し続けることこそが,いろいろなことへの最善の準備であるように思います.

挑戦をしよう!

 2000年代の半ば頃でしょうか,実験が始まる前に,「先生にとって幸せとはなんですか?」と突然聞かれました.僕は,少し考えて,「自分ができるかどうか分からないことに挑戦すること」と答えました.それ以来,僕は,「挑戦すること」によって(大学での)幸せを感じているんだと思うようになりました.僕自身の挑戦には,良い論文誌に採録されることもそうですが,研究で分からないことやできるかどうか分からないことを解決するということも含まれます.

 「挑戦」とは「できるかどうか分からないこと」をやることです.自分ができることをいくらやっても自分の自信はつかないと思います.自信というのは,「自分ができるかどうか分からないこと」すなわち「挑戦」をすることによってついてくるように思います.まずは,小さなこと,本当に小さなことからでもよいので,日頃の自分がやることの中に「挑戦」を入れていくことを進めます.「挑戦」は「できるかどうか分からないこと」なので,できなくて当たり前です.でも,できなかったら,なぜできなかったのかを自分なり考えて,次は取り組み方を変えていくなどの修正も必要です.ぜひ日頃の人生に小さな「挑戦」をしてみてください.

やる気はどこから湧いてくるのか?

 僕自身について考えてみると,「自分自身の現状の正しい認識」,これに尽きる気がします.僕の周りには本当にすばらしい研究をしている人がたくさんいて,その方々と僕自身を比較すると,本当に引け目を感じています.この事実の認識と,少しでも彼らに追いつこうというのが僕自身のモティベーションになっています.一方,気が滅入るときには,自分自身の良い側面を見るようにします.僕自身の中では,この良い側面と引け目を感じる側面をうまくコントロールしながらモティベーションとしているように思います.あと,こういうことができたらうれしだろうなということを僕自身の中で想像して,それへ向かって努力をするということもあります.

 このことを学生さんに当てはめて考えてみると,(就職などへ向け)価値ある自分を作るための「自分の現状認識」が大切なように思います.一方で,大学生のみなさんは,自分さえ頑張れば,いろいろなことを学べる環境にあります.これは,当たり前すぎて良い側面だと思わないかもしれませんが,このことを良い側面だと認識できるようになることも大切なことのように思います.「良い側面」と「引け目を感じること」の両方をきちんと認識して,自分をコントロールしながら目標へ向けて頑張るのがよいのではと思います.

なぜ大学にはいろいろな科目があるのか?

 大学の授業にはいろいろな科目があります.自分の専門のことを学びたいと思うかもしれません.専門の分野を学んで,手に職をつけて,その分野の専門家として活躍したいと思うかもしれません.

 しかし,「大学」に期待されているのは,「未来を作り出す力」なのではないかと思います.もし,専門職の人が必要なのであれば,会社も専門職を学んだ人を採用し優遇するはずです.しかし,現状では,大学生のほうが優遇されること多いのではないでしょうか.

 これは,大学にはいろいろな科目があるということも一つの理由になっていると思います.いろいろな科目を持ち,Connecting the dotsのdots(点)を多く持っているからです.会社で仕事をする際に,上の立場になればなるほど,一つのことを知っているだけではダメで,広い範囲の知識や経験が必要になってきます.大学の授業科目というのは,将来を見据えて,様々な「点」を作れるように考えられているのです.

 昔,「情報システム」はコンピュータに使い慣れた人たちでプログラムを作っていて,慣れていない人には使いにくいということがありました.また,プログラムも専門的な人たちによってのみに作られていて,作成した人がいなくなるとそのプログラムのメインテナンスができなくなってしまうなどの様々な問題がありました.現在,「情報システム」を作成する際には,「社会科学」(人間社会や人間の行動を科学的に研究する分野)的なアプローチをとることが常識になっています.

 大学ではいろいろな科目を広く学んでもらうことによって,実際に社会に出た際の様々な問題を解決できる準備ができるようになっているのです.もっとも,実際には,大学で学んだことを思い出して,再度勉強するということが多いかもしれません.上の例では,情報システムの構築に社会科学的アプローチを取り入れることによって,(すべてではないですが)様々な問題を解決し,情報システムの「未来を作り出している」と言えるのではないでしょうか.現状の問題を解決し,新しい未来を作っていくには,いろいろなことを知って経験しているということが大切なのです.

100人受講者がいたら,授業は1対100か?

 もちろん,教員は一人ですので1対100ですが,授業を先生の近くでうなずきながら聞く,あるいは早めに来て先生と話をするなどをすると,先生はその学生のことを覚えるようになります.あるいは,講義が終わった後に,(疑問に思ったことを)質問として持ってい行くというのもよいと思います.こういう積極的な行動をすると,授業を1対1に近づけていくことできるように思います.

 以前,アラブ首長国連邦での国際会議でのことです.ある有名な先生が招待講演をしていて,僕は比較的前のほうで話をうなずきながら聞いていました.国際会議が終わった夜に,砂漠のツアーに参加をしたら,その先生もいらしていて,僕に,「国際会議に参加していましたよね」と話しかけてきたことがあります.うまい話し手は,聞き手のことをきちんと見ています.この意識を持つことも大切なように思います.

大学の授業は古臭いのか

 最近,AI, 特に生成AIが流行っています.多くの学生さんは,AIやロボットなどなど最新のものに携わりたいと思うかもしれません.

 今のAIを作るために必要な技術は,線形代数,微積,確率,プログラミングなどです.ロボットを作るために必要なのは,制御工学,電子工学,プログラミングなどです.AIやロボットを構築するための基礎技術のほとんどは実は大学で学べるものなのです.逆に,これらの基礎技術を知らずに,AIやロボットを作ることはできません.ただ,線形代数,微積などとAIとのつながりが見えないかもしれません.そのつながりが見えるようになるには,基礎学力をしっかり持つ必要があるからです.

 以前,僕のゼミの卒業生が,ゼミで学んだあることが,最新技術を実装する際に役に立ったと言っていくれたことがありました.僕自身が教えていたことは,彼曰く,教科書に書いてないことで,最新の技術を実装する際にとても役立ったそうです.大学で,学ぶことというのは,実は,最新技術を学ぶための基礎なのです.最新技術とのつながりが,その分野をしっかり学習しないと見えてこないことが,少し残念なことなのかもしれません.

コスパ・タイパの罠から抜け出そう!

 コスパ(コストパフォーマンス)やタイパ(タイムパフォーマンス)を考えることはもちろん大事なことの一つですが,今の時代,タイパが悪い,コスパがよくないなどを理由に,取り組まないということが多いように思います.コスパ,タイパなどを,やらないことの理由にしていないかという視点は,常に持ったほうがよいと思います.Connecting dotsの視点で考えると,意味ないことが,後で意味を持つことも多々あります.

 僕の好きな映画のセリフに,「難しくなかったら誰でもやるだろう.難しいから価値があるんだ」というようなものがあります.効率よくやる方法があったらみんなやっています.ある世界中どこに行っても尊敬されている先生がいらっします.その先生,人がおおっ!というようなアイディアを出してくるのですが,実は人よりもものすごい時間をかけて考えています.彼にとって大事なことは,コスパやタイパを考えることではなくて,今目の前にある課題を解決すること,であるように思います.コスパやタイパを考えることは悪いことではありません.しかし,それがメイン(目的)にならないように注意する必要があります.

何をするのかを考えるよりは,まずやってみることを

 たまに学生さんに,プログラミングを学びたいのですが,どの言語が良いですかという質問を受けます.僕はたいてい,どんな言語でもよいので,一つの言語を選んで,深く勉強してみることを進めます,と答えています.

 上の「コスパ・タイパの罠から抜け出そう!」といっしょですが,何をするのかを考えることを大切ですが,同じようにまずはやってみることも大切なことです.

就活で大切なこと

 就活がなかなか決まらず,ますます就活に時間をかける人がいます.でも,その前に,会社側としては「大学生」を採用しようとしているという視点を忘れてはいけないように思います.教員の立場から見ると,大学の勉強をしっかりこつこつとこなすところから,良い就職先が見えてくるように思います.

 「自分は手に職がないから...」と思いがちですが,会社の方の多くは,「あなたが手に職を持っているか」ということよりも,「あなたがどういう考えをしていて,会社に入ったら,他の人と協力して働いてくれる人であるかどうか」を見極めることを重視しているように思います.(もちろん,研究所に就職をしようと思ったら,研究業績がどれだけあるのかを見られますが,それはまた別です.)大切なことは,「あなたがどういう人で,どういう考えを持って働こうと考えているのか」です.

就活へ向けてストーリーを作ろう!

 就活へ向けて「大学生活で何をしてきたか」を語れるようにしよう!これは,個人が経験したこと,成長できたと感じることなど,自分の学生生活をストリーとして語れることが大切です.「○○のアルバイトをしました」や「○○の部活を頑張りました」だけでは,そこでどういう経験をしたのかが伝わりません.どういう経験をして,自分がどのように成長したのかを語れることは大切なことの一つだと思います.

 もちろん,アルバイトや部活に関することもよいのですが,「大学で何をしてきたのか」ということを語れることも大切なことの一つです.大学の授業やゼミ,何か興味のあるものをいくつか見つけて,そこから自分が何を得て,自分をどう成長させることができたのかなどのストーリーが語れるとよいです.

 ストーリー作りは,就活の直前になってすぐにできるものではありません.早いうちから準備をしておくことが大切です.

人との出会いの大切さ

 まずは,小学校時代に数学や英語を教えてくれた近所の方.ここで,僕自身の数学と英語の基礎ができたたように思います.大学時代の指導教員は,僕が研究者として生きるための基礎を教えてくれたし,国際会議などは指導教員が参加していた国際会議を背中を追うように参加してきました.英語学校で出会った先生方,僕の英語を点数だけの英語から実用的に使える英語にしてくれただけでなく,人生を生きていく上で大切なことをたくさん教えてくれました.共同研究者の先生との出会いがなかったら,僕の研究生活は全然違っていたかもしれません.在外研究先の先生や国際会議で出会った先生方からも多くのことを学ばせてもらい,学ばせて頂いたことは普段の授業や自分の研究にも利用させて頂いています.僕自身の人生を振り返ってみて,そしてこれからも,「人の出会い」はとても大切なことのように思います.

 素晴らしい人に会うのは,実際には運もありますが,「自分で努力してその結果として会えるようになる」という発想を持つことのほうが大事だと思います.素晴らしい人をもし見つけることができたならば,その「素晴らしい人を印象付けらえるような何かをする」ということは大切なことです.あなたがどんなに素晴らしい人だと思っていても,素晴らしい人があなたに目を向けてくれるようにならなければ意味を持たないからです.

1+1=3と言われたら?

 1+1=2に決まっているだろという考えもありますが,そもそも1+1=2と決めているのは人間が作った数学の中でのことです.ある大学と別の大学が統合した際に,1+1=2ではなくて,2つの大学が合わさってその効果は10にでも100にでもならないといけないというニュースがありました.実際に,1+1=3と言われることはないと思いますが,自分とは違う考えを言われることというのは結構あるのではと思います.

 1+1=3と言われたときに,一番よい対応は,「なぜその人はそういうのだろうと考えてみること」だと考えています.

大切なことは積極的になること!

 「1+1=3と言われたら?」とも密接に関係します.社会で生きていくと,いろいろな選択肢があって,必ずしも自分が考えていることと違う選択がされることが多々あります.この時に,よくある考え方は,自分の考えの選択肢になるかどうかということではないでしょうか.この時に大切なのは,「自分の選択肢になるような意見はきちんという」ことと,「自分とは違う選択しになっても,そのことに対して積極的になること」だと考えています.

 親子関係で考えてみましょう.親は,たいてい子供にこういうふうになって欲しいという希望というか願いがあると思います.しかし,これを強く持ちすぎると,子供の可能性を狭めてしまうように思います.子というのは,親の考えと違う考えを持つときもあるので,違う考えを尊重して,その考えに積極的になることが大切なように思います.

 自分と違う選択しを選ばれた場合でも,その考えに積極的になって進めてみると,予想以上の成果・効果が得られていくように思います.自分の考えている選択肢が選ばれなかったとふてくされるよりも,こちらの考えのほうが得だと思いませんか?

 ただし,自分と違う選択肢が選ばれたとしても,自分の考えをしっかり失わないということも大切です.本当に強い考えを持っている人は,違う考えの中にはいっても,自分の考えを持ち続けることができると思います.

研究について

 正直なところお話しすると,僕自身も,研究が(すこしだけ)できるようになるまでにだいぶ時間がかかりました.そもそも,日本の教育は,正解を求めることを重視する傾向があって,また和を重んじるためはみ出ることを許容しにく雰囲気があるように思います.研究で,問題を解決するためには,まず問題設定から自分で考えなければならないですし,また,問題を解決するためには他とは違う突飛な発想も時として必要になるように思います.この意味で,(人に迷惑をかけないのは当たり前ですが)「人と違うことをやる」というのは,良い研究をしていくための第一歩ではないかと考えています.

 僕のゼミでは,研究には3つ段階があると考えて進めています.第一段階は「まず自分が知らないことをやってみる」,第二段階は「教員が知らないことをやってみる」,第三段階は「他の人もしらないことをやってみる」です.第三段階まで行けると,学会発表できる可能性がでてきます.ゼミでは,(小さなことでよいので)分からないことをやることを重視しています.しかし,「タイパやコスパ」を重視すると,分からないことが分かるようなるということはありません.まずは,「タイパやコスパ」から脱却して,「この問題を解決してやろう」,「分からないことを分かるようにしてやろう」と根拠なく,自分で思いこむことが大切です.この思い込みをできるかどうかが,研究を進められるかどうか鍵の一つのように考えています.

 また,良い研究をするというのは,本当に大変なことです.レベルの高い学会になると,理論的な新規性だけでなく,実用性や数学的な側面も求められたりするものもあります.また,他の類似する研究と比較して,メリットを明確に伝えることも大切です.これを高いレベルで実現していくのは,本当に大変なことだと思います.僕自身,このレベルの研究ができたなと思うのは,余裕で片手に入るくらいしかありません.何事もいっしょだと思いますが,研究も上をみたらきりがないように思います.