-対数美的曲線とは-

吉田典正 (yoshida.norimasa @ nihon-u.ac.jp)(日本大学)

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「美しさ」をアピールできることは,工業製品がマーケットで成功するために非常に重要です.例えば,自動車のボディの特徴線は,その車の美しさに対する印象を大きく左右します.NURBS などに代表される従来の曲線・曲面の多くは多項式または有理式で表現されていますが,高いレベルの美しさに対する要求を満たしているとはいい難いものがあります.その主たる理由は,曲率の連続性に加えて増減変化を制御することの困難さにあります.曲率は,曲面の美しさに強く影響する反射線のひずみと密接に関連しているので,曲率変化の制御は非常に重要です.

NURBS で曲率を一定にする(すなわち円弧を表現する)場合に,不自然なウェイトとノットベクトルを与える必要があることは,曲率変化の制御が困難であることの典型的な例と言えるでしょう.下の図 に,別の理由を示します.(a) は望ましい曲率変化をもつ曲線の一例であり,(b) はその3次Bezier 曲線による近似例です.曲線形状は単純ですが,Bezier 曲線の曲率は増減を繰り返しており望ましくないものとなっています.

和歌山大学の原田利宣先生が,「自然界や人工物におけるさまざまな美しい曲線の多くは,曲率対数分布図が直線で近似できるということ」を指摘さまれました.対数美的曲線とは,曲率対数グラフが直線となる曲線です.原田先生が調べた美しい曲線には,蝶の羽や自動車のボディのキーラインなどが含まれています.対数美的曲線の特別な場合として,曲率対数分布図における直線の傾きα=-1の場合にはクロソイド曲線,α=1の場合には対数螺旋となることが指摘されています.本研究では,曲率対数分布図が直線で表される曲率変化の単調な平面曲線を美的曲線と呼びます.

*注: 曲率変化が単調でない曲線に対しても,曲率対数分布図を描くことができ,分布図とは呼べないことから,曲率対数グラフと呼ぶことにしました.

静岡大学の三浦憲二郎先生は,美的曲線の一般式を導出されました.この研究は,我々の研究の基礎となる重要なものですが,美的曲線の全体像がαによってどのように変化するのかなどは解明されておらず,また,曲線セグメントをどのように描くのかということも明らかになっていません.

我々は,対数美的曲線に対してある種の制約を加えた標準形を考えることによって,(1) 対数美的曲線の全体像を解明するとともに,(2) αが指定されたときに,2次のBezier曲線と同様に3個の制御点によって美的曲線セグメントを描く手法を考案しました.我々の研究の主たる貢献は,次の点にあります.

(1) 対数美的曲線の全体像の解明
対数美的曲線を,ある種の制約を課した標準形として定式化する.曲線の曲率半径,方向角,弧長の間の関係式を導出し,LCH の直線の傾きR によって曲線の全体像がどのように変化するのかを明らかにする.また,Λ = 2 の美的曲線が円のインボリュート曲線であることも示す.

(2) 対数美的曲線の縮閉線の解明
対数美的曲線の縮閉線(曲率中心の軌跡による曲線)も,美的曲線であることを示す.

(3) 対数美的曲線の対話的描画
α が指定されたときに,2 次のBezier 曲線のように,3点を指定することによって,対話的に実時間で対数美的曲線セグメントを制御する手法を提案する.

(4) 対数美的曲線セグメントの性質の解明
様々なα や制御点の配置に対して,対数美的曲線セグメントとその縮閉線のがどのように変化するかを明らかにする.また,曲率の変化に対する強い拘束から,指定された制御点の配置とα によっては曲線セグメントが描けない場合がある.α および制御点の配置と曲線セグメントの描画の可否との関係を実験的に明らかにする